桜・サクラ・さくら?


(2007.05.12 新ひだか町

 午前2時まで仕事が続いて、ようやく横になったのだが、なかなか寝付けない。明日の道内はまあまあのお天気だが、明後日は雨模様。忙しいには忙しいが、でもどこかへ出かけるなら明日しか無いぞ!では、何処へ…等と考えているうちにすっかり眠気が醒めてしまった。
 ではでは、またまた夜逃げしますか…とエンジンをかけた。向かったのは旧静内町。そこには20間道路というのがあって、道路の両脇、延々と7km桜並木が続く道内屈指の桜の名所。今から出かけたら午前6時前に着くから、さすがの名所もまだ人影はまばらだろうと考えて出かけてみた。
 ところが、同じ考えの方々だろうか思いのほか人出が多くて驚いた。人混みを撮っても仕方ないと、車をトロトロと北へ走らせて、間もなく桜並木が終わる直前で右折。そこに車を放置して、更に歩き回ってようやく撮った写 真がこれなのだが、早朝なもので光線の加減が悪かった。北から南を向いて撮影しているのだが、右手の桜には朝日が当たり、左手の桜は日影になっている。うーん難しいもんだねぇ!

 

オオサクラソウ(2007.05.12 新ひだか町

 この新ひだか町に来た理由はもう一つあった。かつてここは、ヒメギフチョウの多産地だった。しかも、後翅のオレンジ色部分の赤味が消失した、イエローバンドと云われるタイプの種類が見られる、道内唯一の場所であった。それが災いしてか採集者が後を絶たず、かつての多産地も見る影がないという状況が続いていた。
 実際Fieldも数年おきに、ここを訪れているが、過去2回ヒメギフの姿を全く見ていないので、その後どんな状況か確認したいと思っていた。ポイントの林道のゲート前に着いたのが、まだ7時で、気温も10度を超える程ではない。ならばここは仮眠をしておいた方が良さそうだと判断して、車のシートを倒し横になった。
 ようやくウトウトしかけた時に、ジープがFieldの車の脇をすり抜け、その音で目覚めてしまった。時計を見たが、まだ30分も経っていない。うーん、もうちょっと寝かせて欲しかったなぁ。そう思いながら、林道のゲートの方を見たら、既にジープの姿はなかった。…ってことは、先程のジープの運転手は、ゲートの鍵を持っていたことになる。いったい何者だったのだろう。

 

シラネアオイ(2007.05.12 新ひだか町

 食パンにハムを載せて1枚食べてから、行動開始。鍵のかかったゲートの脇をすり抜け、歩き出したのが8時ころ、気温は12度。かつてのヒメギフの最大のポイントを覗くが、蝶類の姿は全く無い。お天気も天気予報を見て想像したほど良くはなさそう。こうなったら、早い時間に林道の奥まで行って、気温が上がりだしたら、徐々に戻って来ようと作戦を立て、歩き出した。
 すると間もなく私の脇に車が停まった。ん?さっきのジープかも。“どこまで歩くつもり?”とジープの運転手。見るとそのおじさんと、隣の助手席にもアイヌのおじさんが乗っていた。どこまでと言われても、気温が上がり出すまで歩く。気温が上がってきたら戻りながら蝶を探すという、デタラメな考えしか無かったので、返答に困っていたら“蝶々の写 真撮るんだろ?”“はい、そうです”“じゃあ、乗んな !”と言われ、後部座席に乗り込んだ。
 “蝶の居る沢まで送ってやるよ、車ならすぐだけど、歩いたら結構あるからな”とそのおじさんは仰る。まあ確かにこの林道は奥が深く、未だに全貌は掴めていない。もともと、ここに来たらヒメギフに確実に会えるとは思ってはいなかったし、ダメモトでご好意に甘えることにした。

 

コツバメ(2007.05.12 新ひだか町

 林道は、崖から崩れた岩がゴロゴロしていて、一般 の乗用車で走行するのは、いささか危険な様子だった。林道の分岐点でジープは停まった。おじさんは左を指さしながら、“こっちの沢に居るはずだ、ここから上には居ないよ”そう自信ありげに仰る。Fieldが丁重にお礼を申し上げ車を下りると、ジープは右の林道を登って行った。
 その沢は、確かに蝶の居そうな雰囲気は有った。カタクリは終わりかけながら、未だ咲いていた。エンゴサク・スミレ類・エゾノリュウキンカなどが咲き乱れていた。しかし、相変わらず気温は上がらない。太陽も薄雲に遮られていた。
 10時近くになって、ようやく空に明るさが増してきて、小さな蝶がバトルを始めた。1種はすぐにコツバメと分かったが、もう1種が特定できない。

 

スギタニルリシジミ(2007.05.12 新ひだか町

 延々と目で追い、ようやく止まってくれたところを撮影できたが、どうやらスギタニルリシジミのようだ。…のようだと言うのは、これだけ表面 が暗い色彩のルリシジミは居ないだろうから、スギタニルリシジミだろうという意味で、実は翅の裏面 を確認しないと100%の同定は出来ないのであるが、散々追いかけてみたものの、ついに裏面 は撮影させてくれなかった。  一方先ほどのコツバメは、もう何年も前から表面を撮りたいと思っているのに、未だに裏面 しか撮らせてくれない。蝶それぞれの習性なんでしょうが、人間の思惑なんか、それこそ蝶の知ったこっちゃないのである。

 

ニシキヘビ(2007.05.12 新ひだか町

 その林道は、小さな2つの沢と交差していた。Fieldは、その2つの沢の間を幾度も行ったり来たりしながら、蝶が飛ぶのを待った。その道路脇で何かが動いたような気がした。何だか分からず近寄ってみたら、80cm程のヘビだった。
 ヘビは年に数度見かけるが、やはりこの時期に集中しているような気がする。特にヒメギフを探しているときに見かける事が多いように思う。そしてヘビに会うと必ずヒメギフにも会えるような気がしていた。

 

エゾノリュウキンカ(2007.05.12 新ひだか町

 そんなジンクスも、今回は通用しなかった。3時間以上も林道をうろついたのだが、ついにヒメギフは現れなかった。やはりこの林道のヒメギフは極端に数を減らしているのは間違いない。以前なら、幾人もの知り合いと出くわした所だが、今回は蝶屋と思しき人とは一度もすれ違うことはなかった。
 しかし、地元の人が、蝶(おじさんはギフチョウと言っていた)ならここに居ると断言したのだから、今日ヒメギフに会えなかったのは気温が上がらなかったからで、決して絶滅したからではないと、少し安心することが出来た。ならばまたチャンスがあれば、ここを訪れてみようと思い帰途についた。

 

牧場(2007.05.12 浦河町

 帰り道、牧場の写真を撮りたいと考えていた。馬は勿論、どうせなら桜も一緒に撮れないかと、注意を払っていたが、ようやく一枚モノにすることが出来た。新ひだか〜浦河は競馬のサラブレットの馬産地として有名で、ご存知の方も多いだろう。
 ところでこの写真を撮影していて、ふと気付いたことがある。馬の肉のことは当然馬肉とは言うけれど、別 名桜肉とも言う。語源は馬肉が桜色をしているから…だそうだが、この有名な馬産地に、有名な桜の見所があるというのは、単なる偶然なんだろうか?それとも何か因果 関係でもあるのだろう?…と思いを巡らせているうちに、更に大きな疑問が浮上してきた。ん?!待てよ〜、さっきのジープのおじさん、もしかして既に居なくなったヒメギフがまだ居るように装っている“さくら”だったりしないよなぁ???

 

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