第1話 日本の蝶は何種類?

3)蝶の旅(その3)
 中国東北部〜ウスリーにかけて分布しているチョウセンシロチョウという蝶がいます。本州では1929年〜1976年にかけて福岡、島根、岡山、佐賀、山口、鹿児島、青森で十数頭の記録があります。北海道では1958年から記録があり、1979年には道内各地で大発生が見られ、このまま北海道に定着するかに見えましたが、1981年を境に目撃情報は無くなりました。
 話題になって乱獲がたたったのか、やはり北海道の冬の寒さに耐えられなかったのかは定かではありませんが、とにかく消息はぷつりと途絶えてしまいました。
 この蝶はもともと移動性の強い蝶らしく、迷蝶が自然発生したと考える方と、いくら移動性が強くても、北から南に迷い込むはずはないと主張する方とに意見が分かれているようですが、もしそうなると、人為的に持ち込まれた可能性が出てきます。
 またオオモンシロチョウという蝶がいますが、この蝶の原産はヨーロッパで、北アフリカからヨーロッパ、アジア、ヒマラヤまで分布していますが、日本では1995年瀬棚町で発見されました。私は、1996年室蘭市産、1997年札幌市産、旭川市産、1999年帯広市産の標本を所有していますが、1999年10月29日帯広市ではモンシロチョウがとっくに姿を消しているにもかかわらず、新鮮な個体を目撃(複数)。寒冷には非常に強い種類のようで、すっかり北海道に定着したようです。また同年初夏に北見市で発見の報が入り、その後帯広市でも大量 の数が確認されたことから、日高山脈、大雪山を大きく迂回しながら十勝に入って来たように思われます。
 ロシア船で野菜等に付着して日本に渡ったとの説が有力のようで、人為的としか言いようがありませんし、2000年頃から青森でも確認されているようなので、北海道から青森まで飛んで渡ったとは考え難く、これまた人為的に運ばれた可能性が強いようです。
 このように外国から人為的に日本に運ばれ定着してしまった蝶に、ホソオチョウ(東南アジア産)というのが関東を中心に観察されました。私も東京大学の構内で見つかったものを送ってもらい飼育したことがありますが、この蝶は未だ絶滅せずに細々と日本で生活しているようですので、この2種はどうやら日本国籍を取得したもようです。
4)結 論
 このように、日本に蝶が何種類いるかという問題は、どこまでを日本の蝶と認めるかという問題をクリアせずには語れませんので、大変難しいことなのです。
 落語で、与太郎にニワトリの数を数えさせたら、いつまでも返事をしないので、「いつまでかかってるんだ?」と叱ると「最後の1羽が走り回っていて、数えられないんだ」と与太郎が返事をします。何か似たものがありそうで、おかしいですね。
 そうそう、結論でした。「日本には蝶が何種類いますか?」と尋ねられると、私は「約240種類くらいです」と答えることにしています。ちなみに何かで読んだのですが、過去に日本で採集され記録が残っている蝶の数は297種類だそうです。ですから、およそ50〜60種類くらいの迷蝶が日本に旅して来たことになります。
 あー、私も迷蝶になって旅したいなー!

 

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