第1話 日本の蝶は何種類?

2)蝶の旅(その2)
 ご存知のように、日本の上空には偏西風という強い風が吹いています。夏、地面 が温められて出来る上昇気流に巻き込まれ、そのまま偏西風に乗ってしまうと、蝶は思いもかけぬ 長い旅を強いられてしまいます。台風が良い例で、大きな台風の直後に北海道で東南アジアにしか棲息しないはずの蝶が捕まった。なんてことが起きます。そして、そんな蝶のことを迷蝶(めいちょう)と呼びます。
 北海道でさえ、そうしたことがあるのですから、沖縄県、特に台湾から100kmしか離れてない八重山諸島(沖縄本島から300km)などでは、もう日常茶飯事なのかも知れません。
 2001年4月、私は初めて念願の沖縄本島へ出かけました。20数種の蝶を採取し10種ほどの蝶の写 真を撮影しました。その中にどこかで見たことのある、でも私の図鑑には載ってない種類が2種類含まれてました。それまで、私が使っていた図鑑というのは(お恥ずかしいのですが)小学6年生のとき、私が初めて上京したときに神田で求めたもので、保育社の「標準原色図鑑全集 1 蝶と蛾」(昭和41年発行の初版本)という代物です。
 脱線しますがこの本の著者はあのあまりにも有名な、白水隆先生で、もうこの頃から第一人者だったんですねー。
 本題に戻しますが、この私の図鑑に掲載がないものですから、世の中事情が変わったのかも知れないと、早速、新しい図鑑を求めたわけです。これもやはり保育社で「原色日本蝶類図鑑」初版は昭和51年ですが版を重ねて13刷で発行は平成10年9月になってます。ついでながら著者は川副昭人・若林守男共著で編集者はあの白水隆先生。やっぱり凄い人なんだ!あーまた脱線。
 その図鑑で調べたところ、1種類はベニモンアゲハと判明。どうりで見たことがあるはず。以前からよく迷蝶として紹介されてた種類で、八重山諸島では近年1〜2月にも採集されていることから(つまり八重山諸島で越冬していると思われるために)土着種と認められ、最近になって日本国籍を取得したようで、この図鑑に載っています。
 さてもう1種類なのですが、ツマムラサキマダラという種類だということは分かったのですが、その図鑑によれば「古く長崎地方・神奈川県神武寺・長野県というデータ不明の♂の記録がある」…これは完全に台風などによる迷蝶なんでしょうね。それからそれから…「八重山諸島西表では3♂3♀の記録がある」…と、えっそれだけ?私が採集したのは、西表島から300kmも離れた沖縄本島だよ。しかも4月で台風に関係ない時期で、しかもしかも、生まれたての無傷だから、きっと生まれは沖縄本島。ってことはこの蝶の親は沖縄本島で1〜2月に卵を産んだということで、その親は沖縄本島で越冬したということになりませんか?
 まあ、このように土着と認められていなくても、迷い込んだ蝶が♀で、その土地に幼虫の餌となる食草があれば、当然産卵して子孫が誕生することはある訳で、そのような蝶を偶産蝶と呼んでいます。つまり偶産蝶が更に越冬してまた子孫を残し、それが数年続けば、やっと土着種として認められるということらしく、ツマムラサキマダラが日本国籍を取るのはなかなか難しいことのようです。

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