第6話 言葉としての「蝶」

 沖縄言葉で「蝶」を「はびる」もしくは「はべる」と言うがその語源は一体どこにあるのだろうと気になっていた。
 ところが沖縄音楽を聴き漁っていて、八重山民謡に“パピル節”という曲があるのを知った。そしてこの“パピル”もまた蝶のことだと気付いた。ってことは、もしかして、フランス語の“パピヨン”が語源で、パピヨン→パピル→はびる→はべる…となったのではないかという思いに捕らわれた。

 一説によれば、日本には7つの“言語”が有るという。“日本語”“アイヌ語”“奄美語”“うちなぁ(沖縄)語”“宮古語”“八重山語”“与那国語”である。沖縄圏に何と5つの言語が存在すると、沖縄言葉研究家の比嘉光龍(ふぃじゃばいろん)氏は力説する。これらの5つの言語は、互いに殆ど通 じ合えないほど違っていたが、 戦時下、軍によって“沖縄言葉” の使用禁止令が出され、沖縄圏の言語文化は崩壊し、戦後、混沌と入り交じった結果 が現在の沖縄口(うちなぁぐち)だと仰る。
 あの狭い沖縄圏に5つの言語という説は、にわかには信じられない気もするが、海に隔てられ、島々で独自の言語文化が進化を遂げたことは想像に難くない。

 じゃあ、世界で「蝶」は何と表現されているのか?調べてみた結果 が下の表である。沖縄言葉のパピルがフランス語起因説…を裏付ける何か証拠を得られないかとの思いがあったが、決定的な証拠は出てこなかった。 フランス語を使用しているアジアの国もベトナムが一番近いくらいで、沖縄からは遠く離れている。

 ※「表記」は使用可能なフォントの都合により、必ずしもその国の文字を使用していません。
 ※「聞きなし」は、私の耳にどう聞こえたかをカタカナ表記したものです。

 しかし、こうして並べてみると単語の冒頭に子音“f”と“p”又は“b”の出現率が高いことに気付く。また単語内に同一音が2度繰り返して出現することも多いように思う。
 日本語でも“ちょう”は“ちょうちょう”と2度繰り返して表現することが多いが、この表現方法は「愛らしい」「可愛い」という感情表現と受け止められる。上野動物園のパンダもカンカン・ランラン・リンリン・フェイフェイ…他であるが、これらは日本に来る前に中国で名付けられたもので、この感覚はアジア圏、もしかしたら世界的に共通 のようにも思える。
 “ファッファー” “パピ”“ボルボレ”“バボ”“ペペ”“パパ”等の“繰り返し音(おん)”にそんなことを思ったFieldでありました。

 あ、ちなみに…日本の先住民族アイ語では蝶をmarewrew(マレウレウ)と表現します。ほらね、ここにも繰り返し音があるでしょ!

 また、第3話にも書きましたが、日本ではかつて蝶と蛾の区別 はなく、明治以降にイギリスから“moth”という単語が入ってきて、対訳が見つからずにお隣の中国から“蛾”という言葉を拝借した訳ですが、同様に独自の国の言葉で蝶を意味する単語が存在しても蛾を意味する言葉が無く“moth”をそのまま受け入れてしまった国と“夜”を意味する単語とくっつけて蛾を意味するようになった国が多いことも実感します。
 先に沖縄では“はびる”もしくは“はべる”という単語が使われていると書きましたが、
これも、おそらくは蝶と蛾を区別 していない単語で、特に蝶を表現する場合には、“あやはびる”もしくは“あやはべる”となります。この“あや”は“綾”もしくは“彩 ”で、 色彩の美しさを表現する“あや”を追加することで蝶と蛾の区別 を表現しているのだと、Fieldは想像しているところであります。


|| エッセイ表紙 ||